はじめに
こんにちは、りんぷと言います。
普段は外資系コンサルのデータサイエンティストとして働き、早いものでもう8年以上になります。
2012年に21世紀で最もセクシーな職業と言われて10年以上が経ちましたが、私がデータサイエンティストになった時期は「怪しい」や「胡散臭い」など様々なネット記事での対象に晒されていました。
近年では大学のデータサイエンス部が増えるなど、少しずつ人権を取りつつあるのかなと感じています。
そこで、今回はまだまだ正直何をやっているかわかっていないデータサイエンティストの1日をまとめてみました。ぜひ最後まで読んでデータサイエンティストの職業イメージにつなげてもらえればと思います。
それでは行ってみましょう!!
09:00~10:00:チームミーティングと進捗報告
データサイエンティストの1日は、チーム全体で行うミーティングからスタートすることが多いです。この時間は、プロジェクトの進捗状況を確認し、チーム内での情報共有を行う重要な時間です。特に、モデル構築の段階にある場合、直面している課題や、前日の取り組みで得られた成果を報告し、全体の方向性を再確認します。
例えば、前日までに試行していたアルゴリズムの精度が想定よりも低かった場合、その原因や改善策をチームメンバーと話し合います。また、データの特性に基づき、どの特徴量が重要であるかの仮説を共有し、次のアクションを決めることがよくあります。データに特有のバイアスやノイズが、モデルのパフォーマンスにどう影響しているかをチームで検討し、それに基づいてアルゴリズムを調整する方針を固めます。
チームミーティングの目的は単なる進捗の確認だけではなく、異なる視点からのアイデアや知見を共有する場でもあります。データサイエンスの分野では、一人での作業では見落としがちなポイントを他のメンバーが指摘してくれることが多々あります。チームで議論することで、新たな仮説が浮かび上がり、次のステップがより明確になります。
このようにして、ミーティングを通じてその日の作業に向けた具体的な計画が整理され、モデル構築に向けてのアプローチをチーム全体で統一しながら進めていきます。
10:00~11:30:アルゴリズムの選定と仮説立て
データサイエンティストにとって、アルゴリズムの選定と仮説立ては、モデル構築の核心となる重要なステップです。この時間帯には、まず与えられたデータセットをじっくりと見直し、ビジネスやプロジェクトの目的に照らし合わせて、どのアプローチが最適かを考えます。
例えば、分類問題か回帰問題か、またはクラス間のバランスがどうなっているかといったデータの性質を確認しながら、いくつかの候補となるアルゴリズムをリストアップします。一般的には、まずシンプルなアルゴリズムからスタートします。たとえば、分類問題ではロジスティック回帰やランダムフォレスト、回帰問題では線形回帰や決定木など、基礎的なアルゴリズムを検討します。複雑なニューラルネットワークなどの手法は、基本的なモデルが上手く機能しない場合に考慮されます。
この段階で大切なのは、データの背後にあるパターンや構造について仮説を立てることです。たとえば、「特定の特徴量が出力結果に大きな影響を与えているのではないか」「このデータには時間的なトレンドがありそうだ」など、データに潜む特徴を探り出し、仮説を立てて、それに基づいてアルゴリズムを選びます。
さらに、過去に似たような問題に対してどのアルゴリズムが効果的だったかを参考にすることもあります。しかし、どれほど良い手法があったとしても、データの特性やビジネス要件に合わなければ意味がありません。したがって、常にプロジェクトの最終目標を意識しながら、シンプルで解釈しやすいアルゴリズムを優先的に選ぶことが重要です。
最終的に、仮説に基づいたいくつかの候補モデルを立てたら、それらを次の段階で検証し、どれが実際に優れたパフォーマンスを発揮するかを見極めることになります。
11:30~12:30:データセットの前処理と準備
データサイエンティストにとって、モデルの成功はデータの質に大きく依存します。どれほど優れたアルゴリズムを選んでも、データの前処理が適切でなければ、正確な結果は期待できません。そこで、データセットの前処理はモデル構築の不可欠なステップとなります。
まず最初に行うのは、データのクレンジングです。実際のデータには、欠損値や異常値が含まれていることがよくあります。例えば、ある特定の特徴量(カラム)にデータが全く存在しない行や、予想外に極端な値(外れ値)が含まれていることがあります。これらはモデルの学習に悪影響を与える可能性があるため、欠損値の補完や異常値の除去が必要です。補完方法としては、平均値や中央値で埋める方法や、前後のデータを参考にする方法があります。
次に、データの標準化や正規化が行われます。特に、異なる単位やスケールを持つ特徴量がある場合、これらを均一な範囲にスケーリングすることで、アルゴリズムが適切に動作しやすくなります。例えば、収入(数百万円単位)と年齢(数十歳単位)を同じモデルで扱う際、データのスケールが大きく異なると、収入の方が大きな影響を与えてしまいます。こうした場合、正規化を行うことで、すべての特徴量が同じ基準で扱われるようになります。
特徴量エンジニアリングも重要な作業です。元のデータセットに含まれる情報だけでなく、新たな特徴量を作り出すことで、モデルの精度を向上させることができます。例えば、時間データから曜日や月を新しい特徴量として抽出したり、複数の変数を組み合わせて新しい指標を作成したりします。
このように、データの前処理と準備はモデルの性能を左右する非常に重要なステップであり、時間をかけて丁寧に行う必要があります。このプロセスを経ることで、アルゴリズムがデータを正確に学習できる状態を整え、モデルの信頼性を高めることができます。
12:30~13:30:ランチブレイク
13:30~15:30:モデルの初期構築と実装
データの前処理が終わった後、次に行うのがモデルの初期構築と実装です。この段階では、仮説に基づいて選んだアルゴリズムを使用し、実際にデータに適用して初期モデルを作成します。ここでは、モデルがデータのパターンをどの程度うまく捉えられるかを確認しながら、慎重に実装を進めます。
まず、最初に決定するのは、どのアルゴリズムを使ってモデルを構築するかです。シンプルな線形回帰やロジスティック回帰から、より複雑なランダムフォレストやXGBoost、場合によっては深層学習といった多様な手法があります。この選定は、前段階での仮説とデータの性質に基づきます。例えば、データが大量であれば、計算コストを考慮し、効率の良いアルゴリズムを選択します。一方、データが少量で解釈可能なモデルが必要な場合は、単純で透明性のあるアルゴリズムが適しているかもしれません。
モデルの実装は、試行錯誤のプロセスです。最初に実装するモデルは、通常シンプルなものにします。複雑なアルゴリズムを最初から選ぶのではなく、基礎的なモデルを構築し、それをベースラインとして評価します。この初期モデルは、今後の改善の指針となるため、最初の段階で過度な調整をすることはありません。実際、モデルがどの程度の精度を持っているかを確認するための基準として利用されるため、あくまで「スタートライン」としての役割が大きいです。
初期モデルを作成したら、それに対してクロスバリデーションやトレーニング・テストデータに分割して検証します。これにより、過学習や未学習の兆候が見られるかを確認します。過学習している場合は、モデルが訓練データに過度に適合していることを意味し、テストデータでのパフォーマンスが低下する可能性があります。この段階での目標は、初期的な評価をもとにモデルの全体的な傾向を把握し、次の改善フェーズに向けた準備をすることです。
モデルの初期構築は、プロジェクト全体の基盤となるため、時間をかけて丁寧に進めることが重要です。このプロセスを経て、次にモデルのパフォーマンスを評価し、改善を加える段階へと移ります。
15:30~17:00:初期モデルの評価と改善点の確認
初期モデルを構築した後、次に行うのがモデルの評価です。このステップでは、モデルがどの程度の精度でデータを予測できているかを確認し、必要な改善点を見つけ出します。モデルのパフォーマンスを評価するためには、様々な指標を用いて数値的に評価を行います。代表的な指標として、分類問題では精度(accuracy)、再現率(recall)、適合率(precision)、F1スコアなどがあり、回帰問題では平均二乗誤差(MSE)や決定係数(R²)などが使われます。
まず、モデルの性能を評価するために、トレーニングデータとテストデータに分割したデータセットを使用します。モデルがトレーニングデータに対して良好な結果を示しても、テストデータで同様の精度が得られなければ、それは「過学習」している可能性が高いです。過学習は、モデルがトレーニングデータに過度に適合しすぎ、未知のデータに対して汎用性を欠く状態を指します。このような場合、データを増やす、正則化を導入する、特徴量の削減を行うなどの対策が必要です。
一方、モデルがうまく学習できていない場合、つまり「未学習」の状態では、トレーニングデータとテストデータの両方で低いパフォーマンスを示します。この場合、より複雑なアルゴリズムを採用する、特徴量を追加する、またはデータの前処理を再考する必要があります。
評価の過程では、モデルの予測結果を詳細に分析することも重要です。例えば、分類問題では、混同行列を確認し、どのクラスで誤分類が多いかを調べます。特定のクラスで誤りが多い場合、そのクラスに関連する特徴量が不足している可能性があります。回帰問題でも、予測値と実測値の差をプロットし、どの領域で誤差が大きいかを視覚的に確認することが効果的です。
評価が終わった段階で、改善すべき点が明確になります。例えば、過学習の兆候がある場合は、モデルの複雑さを抑えるためにパラメータを調整したり、正則化を導入することが考えられます。また、未学習の場合には、アルゴリズムを変更したり、特徴量エンジニアリングを再度行う必要があるかもしれません。この段階での改善策を立て、次のステップに進む準備をします。
初期モデルの評価と改善は、モデルの性能を向上させるための重要なプロセスです。これを繰り返し行うことで、最終的にビジネス要件を満たす高性能なモデルに近づけていきます。
17:00~18:00:改善策の計画と次のステップの準備
初期モデルの評価が終わったら、その結果を基に改善策を計画し、次のステップに向けた準備を行います。ここでは、モデルのパフォーマンスを向上させるためにどのような手段が効果的かを整理し、効率的に次の作業に取り組めるよう計画を立てます。
改善策の第一歩は、モデルの弱点を把握することです。例えば、モデルが特定のデータパターンをうまく捉えられていない場合、その原因を探り、特徴量エンジニアリングの再考や、データの増強(augmentation)を検討します。また、モデルの性能が過学習によって低下している場合は、正則化手法(L1やL2正則化)の導入や、訓練データの量を増やすことで、汎化性能を向上させる手段が有効です。これらの対応策をリスト化し、優先度をつけて取り組むべき改善項目を整理します。
次に、アルゴリズムの再選定やハイパーパラメータの調整も重要な改善策の一つです。例えば、初期モデルでシンプルなアルゴリズムを使用した場合は、より高度なアルゴリズムに切り替えることを検討します。ランダムフォレストからXGBoostやLightGBM、あるいはニューラルネットワークへと移行することが考えられます。ハイパーパラメータの調整も、モデルの性能に大きな影響を与えるため、グリッドサーチやランダムサーチといった最適化手法を使い、適切なパラメータを探索する準備を整えます。
また、次のステップに進むために、業務の優先順位を再度確認し、タスクをスケジュールに落とし込みます。特にデータサイエンティストの仕事は、複数の業務が並行して進むことが多いため、プロジェクト全体の進捗を把握しつつ、短期的な目標と長期的な目標を明確にしておくことが重要です。チームメンバーと共有し、今後の作業スケジュールや役割分担を確認することも、この時間に行います。
このように、モデルの改善策を明確にし、次のステップを計画することで、モデルの精度や性能を高めるためのアクションを具体化します。1日の終わりにこれらを整理することで、翌日からの作業がスムーズに進行し、プロジェクト全体の効率を向上させることができます。データサイエンティストの仕事は、こうした綿密な計画と改善の繰り返しによって、着実に前進していくのです。